こんにちは、いしかわです。
今回は、私がなぜ秋田の日本酒を紹介しているのかをお伝えしていきます。
「この人、なんでこんなに秋田の日本酒ばかりにこだわってるんだろう」
「この人、信用していいのかな?」
そんな疑問や不安の答えになってくれるかと思います。
ぜひ最後まで読んで私を知っていただけるとうれしいです。
それでは、いってみましょう。
最悪の出会い。20歳の誤解は尾を引く
実は私、日本酒が嫌いでした。
臭いしマズいしキツイし頭が痛くなるし、いいイメージなんてまったくなかったんです。
というのも、出会い方がすこぶる悪かった。
私がはじめて日本酒を飲んだのは20歳のこと。
カラオケで飲んだ『日本酒・冷』がはじまりでした。
もうね、これがマズいのなんの。
ツーンとくる香りに重い味わい。それに、アルコールがキツイ。
量だけがやたらと多くて、ただただ飲むのが苦痛でした。
「これはおじさんの飲み物だわ」
と、本気で思ったほどです。
いま考えてみれば、
- 場所はカラオケ
- 銘柄の表記もなし
- 飲み放題メニューのひとつ
という条件です。
どこに期待をすればいいのかなどわかりません。
日本酒好きであればむしろ、“頼まない”が正解だったのではないかと思います。
とはいえ、頼んでしまった過去は変えられません。
私は日本酒が嫌いになりました。
「あんたも飲め」がうまく働いた珍しいパターン
もはや、プレゼントすることはあっても自分で飲むことはあるまいと思っていたある日、そのときはやってきました。
祖父の誕生日です。
人にプレゼントする日が来てしまったんです。
ですが当時の私は日本酒が苦手すぎて、なんの知識もありません。
まして『秋田のカラオケ』で『秋田の日本酒(と思われる酒)』を飲んでそうなったのです。
贈るお酒に『秋田の日本酒』という選択肢はありませんでした。
では、何をどうやって選ぶのか。
もちろん有名な銘柄を、ランキングを頼りに選びます。
人気があって希少価値のある1本を楽天で張りこみ、入荷したらすぐに飛びつきました。
そうしてGETしたのが、
“獺祭 純米大吟醸 磨き五割”
当時は蔵を増築する前で、なかなか手に入らないとされていた山口県の銘酒です。
エヴァンゲリオンのなかにも登場したり、ロンブーの淳が好んで飲んでいたりと、大きな話題性をもった日本酒でした。
とはいえ、買う決め手となった理由はそこではありません。
- 全量純米大吟醸
- 精米に1週間かかる
というパワーワードに魅かれました。
これも今になって思えば、精米に1週間かかるというのは『磨き二割三分』のことであって、『磨き五割』のことではなかったのだと思います。
ですが、当時の私には知るよしもありません。
「そんなにこだわってるのか!」
と、ポジティブに受け止めたのです。
なので、買ってしまいました。一升を。
一升を、です。
1.8Lも入っているのですから、渡して言われる言葉などわかりきっていました。
「あんたも飲め」
うれしそうにそんなことを言われたら、私もNOと言えるはずがありません。
グラスを用意し、少量を恐る恐る口に運びます。
思い出すのはあの日の1杯。
『日本酒・冷』です。
「もうダメだ、おしまいだ……」
すると、どうしたことでしょう。
香りからすでに違ったんです。
フルーティーな香りに、甘みのある味わい。
甘みのなかには小さく酸味も感じます。
とにかくスムーズ。
なにより、柔らかかったんです。
おなじ日本酒とは思えない口当たりに、純米大吟醸というものの地力を見ました。
同時に、『獺祭』という銘柄に並々ならぬ尊敬の念が生まれたんです。
それはもう感動と言っても過言ではありません。
まじめな話、天地がひっくり返ったんです。
それからすぐに、獺祭には
- 磨き三割九分
- 磨き二割三分
- その先へ
- 遠心分離
があることを知り、『その先へ』の値段にドン引きしたのを覚えています。
「これは無理だ。一生買うことはないだろう」
そっとブラウザバックし、私は手ごろな価格の獺祭に狙いを定めました。
そうです。
『磨き三割九分』です。
一升瓶でも4000円ほどで買うことができ、送料込みでも5000円を切ります。
今になって思うと決して安くはないのですが、当時の私は獺祭の虜です。
迷いなどありませんでした。
こうして『磨き三割九分』という身に合わぬ袈裟をGETした私は、ぜいたくを覚えてしまいます。
おいしさの基準が『獺祭』になってしまったのです。
私は常に、『獺祭』のような日本酒を求めるようになっていきました。
旅先で出会う日本酒がくれたもの
それからというもの、私は県外の日本酒に憧れを抱くようになっていきました。
なにせ情報が氾濫している時代です。
ネットで探せば、おいしい日本酒の名前などすぐに調べられてしまいます。
たとえば、
- 十四代
- 飛露喜
- 伯楽星
- 醸し人九平次
- 磯自慢
- 梵
飲んだことはないけど聞いたことはある。
そんな“ブランド”に固執し、人気の日本酒を取り寄せるようになりました。
酒どころ秋田に生まれておきながらです。
遠く熊本からは『美少年』を取り寄せ、『獺祭』から『槽場汲み』がでれば買い、食中酒としてわざわざ『伯楽星』を取り寄せることもありました。
もはや、日本酒は取り寄せるもの。
そんなイメージが根付いてしまったほどです。
ところがそのイメージは、旅行によって粉々に壊されました。
発端は私の思いつきです。
「新潟に酒を買いにいこう」
ふわっとした提案に乗っかってくれたのは2人の友人。
日本酒好きが集まれば、こんなにもフットワークが軽くなるのかと驚いたものです。
今となっても2人には感謝しかありませんが、それはまた別のお話。
話を戻します。
2泊3日で組んだ新潟旅行には、はじめての酒蔵見学を含ませました。
場所は、今代司酒造さん。
新潟駅からもそう遠くない、通える距離にある酒造です。
ただ、選んだ理由は近かったからだけではありません。
とんでもなく気になる日本酒があったからなんです。
その日本酒の名は『花柳界』。
日本酒度-27(当時)の超甘口です。
酒蔵で試飲させていただいて驚きました。いや、驚きなんてものでは表せません。
「これが日本酒!?」
またも天地がひっくり返ったんです。
米と水だけでどうしてこんなにも丸い甘みが出せるのか。
ほどけるようなやさしい甘みに、辛口好きだと思っていた自分の価値観が揺さぶられました。
そして何より、定番商品がうまかったんです。
純米酒、純米吟醸、純米大吟醸。
どれを飲んでも、心によく響いたんです。
実は当時の私は、新潟の日本酒というものをよく知りませんでした。
味のイメージは『淡麗辛口』。
担当していたスーパーの売場には、
- 越乃寒梅
- 八海山
- 久保田
- 菊水の辛口、純米酒、四段仕込み
これらが並んでおり、有名どころをいくつか知っているだけという状態です。
なのですごく失礼な話、『花柳界』に出会うまでは今代司酒造さんを知らなかったんです。
だからこそ、定番商品のおいしさが胸を打ちました。
えぐるように深く貫かれたんです。
「知らないだけで、うまいは地元にある」
「ブランド=うまいではない」
私は、有名で希少価値のある日本酒ばかりを検索していた自分を恥じました。
秋田には日本酒がある、が……
日本酒を取り寄せることをやめた私は、地酒を見直すことになります。
秋田の銘酒といえばなにか。
スーパーで酒を担当していたがゆえに、知識だけはついていました。
ただ、だからこそ選択肢が歪んでいた。
私の進んだ道はひどく歪んでいたのです。
「スーパーに置いていない酒がうまいに違いない」
つまり、地酒屋さんにしか置いていない日本酒。
スーパーには卸していないことに“より専門性を感じ”、「そっちのほうがうまいんだ」という判を勝手に押していました。
とはいえ、当時の私は洋酒も大好きです。
ウイスキーはもちろん、ジンやリキュール。とにかくさまざまなお酒に手を出していました。
そのため、いまほど日本酒が晩酌を占めてはいなかったんです。
そしてこれは、あなたも悩まされているのではないでしょうか?
月に使える金額。
限られた予算のなかでどのジャンルを攻めるのか。
酒好きにとっては永遠のテーマともいえます。
なので当時の私が日本酒を買う頻度は、けっして多いものではありませんでした。
月に2本買えば多いほう。
1本をゆっくりと楽しむ生活だったんです。
だからこそ、失敗したくはありません。
慎重な日本酒選びはどんどん偏っていきました。
新政No.6との出会い、そして違和感
ランキングやブランド力に偏った嗜好は、ついに運命を変える日本酒と出会います。
それは当時、新進気鋭の蔵として知られはじめた新政酒造の1本。
エントリーモデルとも呼べる『No.6』。
その『R‐type』でした。
はじめて飲んだときの記憶は、いまでも鮮やかに蘇ります。
本気で思ったんです。
「もうこれだけ飲んでればいいや」と。
軽快な酸と程よい辛さ。
アルコール度数も一般的な日本酒よりも低く、飲みやすさが加速します。
あっという間の1本でした。
私は量が飲める人間ではありません。
720mlですら数日に分けて飲みます。
そんな私が1日で飲みきってしまったのです。
この事実に、なにより私が驚きました。
本当においしかった。
時代を感じた。
「若者にウケる日本酒」が出てきたと、本気で思ったんです。
ちなみに出会いのきっかけは、たまたま立ち寄った地酒屋さんです。
当時はまだ『入手困難』というほどではなく、人気に火がつくギリギリ手前。
レジに持っていけば問題なく買うことができました。
ですが2回目。
日を空けて訪れると、状況は一変していました。
なんと、“くじを引かされた”のです。
それも“当たればプレゼント”ではありません。
“買う権利がもらえる”というものでした。
心境は複雑でした。
そのときは当たりを引いて買うことができたのですが、喜びの質が変わってしまったのを覚えています。
浮かんでくるのは数々の疑問。
「そこまでして飲みたいか?」
「そんな特別扱いってある?」
「射幸心を煽るものでもないでしょう?」
正直これは、日本酒選びの価値観が変わってしまう悪い例なのではないかと思いました。
買えたことを喜ぶ。
飲めたことを喜ぶ。
モノに希少性が加わると、評価はブレます。目は曇ります。
当たりを引いた日からしばらくすると、地酒屋さんの店頭から新政が消えました。
同時に増えたのが、「新政ありますか?」の声。
私のいたスーパーでもよく尋ねられました。
「もっと目の前にある酒をみて!」と言いたかったですが、当時の私にそんな資格などありません。
私もまた希少性を喜んでいた人間。
くじまで引いて買った人間です。
それに新政が業界に投じた一石は、大きな大きな波紋を生みました。
この盛り上がりを否定することなどできません。
ですが、私の内に生まれた違和感に目を背けることもまた、できなかったのです。
自分ではなく他人のおいしいが最高の褒め言葉
もともと秋田は、米どころにして酒どころ。
そもそもがおいしいはずなんです。
なのにどういうわけか、地酒屋さんに足を運んでいる。
自身がスーパーで酒部門を担当しているのにも関わらずです。
希少性や『ここでしか買えない』に疑問を持ちはじめた私は、いま一度、みずからが担当する棚に目を向けることにしました。
少しずつ、少しずつ。
日常のなかに見える日本酒を手に取るようにしていったのです。
そうして価値観が少しずつ変わりはじめた頃、その日は訪れました。
たぶんここが明確な転機。
職場の仲間との飲み会です。
その仲間はウイスキー党で、日本酒はまったく飲まない人でした。
日本酒の印象を聞くと「甘いイメージがある」とのこと。
経験上、そのイメージを持っている相手には、生半可な日本酒を出しても「甘い」と言われます。
特にビールやハイボールを好む相手だと、サッパリ感のなさはネガティブな印象を与えがちです。
なので、ダメでもともと。
私はそのお店の3種飲み比べセットを頼み、試飲してもらいました。
1本目に対する反応は、「ああ、やっぱり甘いですね」
決しておいしそうな表情ではなく、苦手なものは苦手がという顔でした。
苦手な人に薦めるのはやっぱり不可能なんだろうか。
不安が脳裏をよぎります。
ですが、2本目のことでした。
仲間の表情が変わったのは。
彼は驚いたような顔で言いました。
「ああ、これおいしいですね。これなら飲めます。めっちゃやわらかい」
本当にうれしかった。
これまで日本酒を飲んできて、こんなに心が震えたことはありません。
はじめて獺祭を飲んだときの衝撃にも勝るほどでした。
自分が薦めた日本酒をおいしいと言ってもらえることに、感動すら覚えたのです。
なのでこの日の1本は、私にとって特別な1本。
名を『福小町 特別純米酒』。
インスタ、ブログをはじめたキッカケとも言える、大切な日本酒のひとつです。
嗜好品だと思い知って広がる視野
誰かの「おいしい」が自分にとって最高の幸せなのだと知った私ですが、それと同時にわかったことがあります。
それは、
“私の「おいしい」が、必ずしも誰かの「おいしい」ではないということ”
先の例でいえば、3種類を薦めて仲間に刺さったのは1本のみです。
感動の陰にかくれていましたが、冷静になれば『日本酒は嗜好品なのだ』と思い知らされました。
ですがこの出来事はまだ、キッカケとしては些細も些細。
『日本酒は嗜好品』
その最たる例が数年後におとずれたのです。
今度の相手は、私の古くからの友人。
そもそもお酒を飲む習慣すらない相手です。
「おいしい」を引き出そうにも、飲まない相手とは戦いようがありません。
普通であれば。
普通であれば、です。
友人の良いところ。やさしいところとでも言いましょうか。
とにかくフットワークが軽く、付き合いがいいんです。
飲む習慣がないのに、呼べばかならず飲みに出てきてくれます。
というわけで私は、彼を大町の居酒屋によく呼び出していました。
1、2杯飲んでもらい感想をもらう毎日。
彼の反応は驚くほど芳しくはありませんでした。
もうね、まったく刺さらない。
友人もまた日本酒の甘さが苦手です。
なので大抵の日本酒は、甘みが気になってしまいます。
その舌の鋭敏さは、辛口はもちろん、大辛口でさえ甘みに気づいてしまうほど。
ところがどっこい。
どっこいですよ。
ある日のことでした。
「これならいける。うめぇ」
ついに彼が唸ったのです。
唸らせた酒の名は『ど辛』。
山本酒造店がつくる、日本酒度+15の超辛口でした。
実をいうと私は、行きすぎた辛口が得意ではありません。
『ど辛』もそうです。
ちょっと辛すぎるかな、というのが正直な感想。
ですが、その「ちょっと辛すぎるかな」が友人には刺さったのです。
刺さったなんて生易しいものではありません。
彼はもう『ど辛』しか飲まないほど、+15の辛さが合っていたようです。
なので、“ぶっ刺さった”。
“ぶっ刺さった”がしっくりきます。
ようやくたどり着いた「うめぇ」の一言に、私はまた特別な1本を見つけました。
ランキングの盲点、妄信に感じたもの
おかしな例なのですが、R-18なDVDの世界では「どんなジャンルでも500枚は売れる」という噂を耳にしたことがあります。
日本酒もきっとそう。
どの日本酒にもかならず合う人がいて、気づいていないだけなのだと思います。
そして、気づけない理由のひとつがこれです。
“ランキング”
日本酒選びに失敗しないための最大コンテンツであり、私も見ていました。
ただ、なかには絶対に参考にしないと決めたランキングもあります。
サイト名は伏せますが、そのランキングは大きく偏っていました。
というのも、上位10銘柄のうち5銘柄が『新政』だったのです。
TOP10の半分がおなじ酒造のものとなれば、隠れてしまう銘柄がかならず出てきます。
スマホが当たり前の世の中です。
指はスライドさせる時代になりました。
が、TOP10までは食い入るように眺めたとして、そこからのスクロールはどうでしょうか?
どこか雑に。
流し見のようになるのではないかと思います。
私はそのランキングにもったいなさを感じました。
このままでは、人気の銘柄はより人気に。
隠れた銘柄はより隠れてしまう構図ができあがってしまいます。
「もっと知られてほしい日本酒がある」
「この勢力図を塗り替えたい」
秋田でいちばん有名な酒造は『新政』。これを崩すことはできません。
ですが、ひとりひとりの好きな銘柄をバラけさせることはできるのではないでしょうか。
私は有名で人気な銘柄よりも、あなたひとりに刺さる銘柄を紹介したいのです。
秋田には、日本酒がある
ここからはもう駆け足。
これが、私が秋田の日本酒だけを発信している理由です。
- 誰かのおいしいが聴きたい
- 秋田の日本酒の勢力図を変えたい
- その人だけに沁みる秋田の日本酒を見つけたい
- 秋田の人だけでなく、全国の人がバラバラの銘柄を挙げてほしい
もちろんおいしいからこそランキングが存在していて、1位も2位も当然おいしいです。
私も好きな銘柄でした。
ですが希少価値やブランド、ランキングが中心になると、飲まずに終わってしまう銘柄が出てきます。
知らずに過ごす銘柄がかならずあります。
私もそうです。
どうしても食指の動かないお酒があります。
予算が限られているので失敗したくはありません。
ですがそれでも、誰かにとってはおいしいのかもしれない。
その可能性がある限り、とにかくさまざまな日本酒を飲んでいきます。
もったいないじゃないですか。
すべて飲んだわけでもないのに「これが最高の1本」と決めるのは、あまりにももったいないです。
まだまだ先は長いですが、私も楽しんで続けていきます。
私にとって「最高の1本」と出会えるように。
あなたにとって「最高の1本」が見つかるように。
あなたの探し物が見つかるように、がんばりますね。
それでは、長々とお付き合いいただきありがとうございます。
ここまで読むの疲れましたよね。
書いている人間が読み返して疲弊しているくらいなので、あなたの疲れは想像以上だと思います。
本当にありがとうございました。
また何か探し物があればいらしてくださいね。
ではでは。