「そんなに違いあるの?」と思われたあなたに。
こんばんは、いしかわです。
毎年発売されていて気になっている人も多いのではないでしょうか。
しぼりたての純米吟醸を、荒ばしり、中ぐみ、責めどりに分けて瓶詰め。
たしかな手間をかけた、究極の飲み比べセットです。
が、とはいえ。
とはいえですよ。
しぼって出てきたお酒の前後でそんなに違いはあるのでしょうか。
1本あたり1980円と、決して安い買い物ではありません。
それが3本となれば尚更です。
ですが、それでも3本。買うなら3本。飲むなら3本をオススメしたい。
それほどに“違いが楽しい3本”でした。
ちょっと詳しくみていきましょう。
荒ばしり、中ぐみ、責めどりってこんなお酒
新酒の頃によく、『荒ばしり』と書かれたラベルを目にすることがありますよね。
あの説明にはこんな言葉が使われることが多いです。
“搾ったとき、最初に出てきた部分”
この説明を見て「どゆこと?」と思った方も多いのではないでしょうか。
だって、考えてみてください。
絶えず搾られてくるお酒の『最初の部分だけ』を瓶詰めしたものですよ?
「どうやって詰めてるんだろう」と思いませんか?
私は思いました。
直接見てきたものが『ヤブタ式』と呼ばれる搾り方だけだったので、イメージが湧かなかったんです。
というのも『ヤブタ式』って、言ってしまえば『全自動』。
アコーディオンの形に例えられる搾り機を使って、機械のチカラで搾ります。
途中、タンクから搾り機に伸びるホースが目詰まりを起こすことがあるので、タンクに櫂を入れる必要はあります。ですが、タンクが空になってしまえば後は自動。機械が1日かけて搾ってくれます。
なので、搾り終われば渾然一体。
『荒ばしり』も『中ぐみ』も『責めどり』もない。すべて混ざりあった状態になります。
ところがどっこい。
どっこいですよ。
物事ってのは難しく考えるから難しくなるんですよね。
搾り方を変えればできてしまうんですって。
その名も、『槽(ふね)しぼり』。
布目の粗い袋にもろみを入れて、袋同士をかさねて搾る方法です。
こうすることで上の袋が下の袋を押しつぶしていき、自重による搾りが可能になります。
ただ欠点。デメリットがあるとすれば、時間と手間でしょうか。
小仕込みなら『ヤブタ式』が約1日で搾れるのに対して、『槽しぼり』は約2日かかります。
さらに、もろみを酒袋に入れるのは手仕事なんです。
酒袋を置いていく釜の上にある管から、都度、もろみを袋に充填しなければなりません。
この手仕事、そして酒袋こそが、今回の3本の肝となります。
最初に『荒ばしり』のことをこう言いました。
“搾ったとき、最初に出てきた部分”
これってつまり、まだ酒袋が未使用の状態。布目が詰まっておらず、オリごと通過してくる状態のことを言います。
なので、お酒はうすにごりに仕上がるのが特徴です。
そしてお次は、『中ぐみ』です。
『中ぐみ』は、袋の目がオリで詰まってきた頃。オリが通過できなくなって、搾ったお酒が透明になった状態のものを言います。
酒質がいちばんキレイとされていて、『中ぐみ』だけで商品化しているところも少なくはありません。
味は好みの世界ですが、質となればこの『中ぐみ』に軍配があがります。
そしてラストは、『責めどり』です。
『責めどり』は、搾り終わり。
搾られてほぼ酒粕だけになった酒袋を、ふたたび積み直します。そして、そこにしっかり圧をかけると出てくるのが『責めどり』です。
味わいには荒さがあり、辛口に仕上がるとされています。
とはいえ、辛口に仕上がると言われても「んな馬鹿な。誤差誤差」と思いませんか?
だって同じお酒です。
そこまで大きな変化はないでしょう。
ところがどっこい。
驚くなかれ。
日の丸醸造さんによると、『荒ばしり』と『責めどり』で日本酒度に4度の差があったそうです。
同じお酒なのにスゴイですよね。
さて、ここまで時間をかけて説明ばかりしてきました。
ここからは駆け足で感想にいきましょう。
『まんさくの花 純米吟醸 荒・中・責』を飲んでみて
まずは『荒ばしり』からいきましょう。
『荒ばしり』は、グラスに注げば見てわかるほどの“うすにごり”。
香りの立ち方にだけ野性味がありましたが、味わいはなめらか。
とにかく明るさが感じられて、冷やして飲むこととの相性の良さを感じました。
そして、ここが飲み比べの妙で!
単体で飲めば『荒ばしり』らしさはあまり感じないんです。
ですが、他と飲み比べると。
特に『中ぐみ』と飲み比べると、味わいがやっぱり跳ねてるんですよ。
口当たりにもしっかりと“うすにごり”が感じられて、『きれいすぎない部分』が楽しめました。
続いて『中ぐみ』です。
『中ぐみ』は、飲み比べるまでもなく“口当たりのやわらかさ”に驚きます。
味わいは、はっきりとフルーティー。なのに『口当たりの妙』とでも言いましょうか。
華やかさがスムーズで、起伏がなくてなめらかなんです。
品質でいえば、明らかにこれ。
圧倒的に香味がきれいなのに、どこか静けさを覚える1本でした。
そしてラストが『責めどり』です。
『責めどり』は、これ……いい意味で“しぼりたてとは思えません”。
いちばん、味が開きます。
いちばん、うまみがジリジリしてます。
いちばん、コクが出てます。
いちばん、うまみを後味まで引きずります。
正直、荒々しさでいえば、荒ばしりよりも荒ばしりです。
公式によると『スパイシーな味わい』ということで、「まさに!」と膝を打ちたくなりました。
アルコール感、雑味混じりのうまみ、後味。
飲んでいて楽しかったのは、間違いなくこの『責めどり』でした。
『まんさくの花 純米吟醸 荒・中・責』の商品情報
- 使用米:秋田酒こまち
- 精米歩合:50%
- アルコール分:16%
※商品スペックはその年によって異なるので、共通する部分だけを記載しました。
まとめ:誤差?そんなこと言わずに飲んでみて。度肝抜かれるから
今回の飲み比べは、ひとりで飲むのはもったいないと思い、友人にも協力してもらいました。
すると、やっぱりひとりでは得られないものがありますね。
感想が大きく割れたんです。
友人のいちばんは『責めどり』。
私のいちばんは『荒ばしり』でした。
そして何より驚いたのが、なんと、2人とも『中ぐみ』が3番目だったんです。
いちばん品質のいい部分が、どうしても上がって来なかった。
この結果がおもしろくて、飲み比べることでしかわからない楽しみが感じられました。
年々、味覚の変化。好みが変わっていくのを感じています。
あなたはいま、どんな味わいが好きですか?
冬過ぎ去る前にぜひ、この飲み比べを試してみてくださいね。
それでは、今回はこの辺で。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ではでは!
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