こんばんは、いしかわです。
秋が深まってくると日本酒のラベルは、紅葉をイメージしたものが多くなってきます。
赤や黄色、茶。
深みをもたせた色使いが売場に目立ちはじめますよね。
さて、そんな秋酒のなかでも今回の1本は、より深く、よりシック。大人的でどこか色気すら感じる装いです。
『刈穂』という大手の『ひやおろし』。
はたしてどんなお酒で、どんな味わいだったのか。
調べてみると、驚くほど情報がありませんでした……。
『刈穂 山廃純米酒 ひやおろし』ってどんなお酒?
『刈穂 山廃純米酒 ひやおろし』は、美山錦を60%までみがいた『山廃仕込み』の純米酒です。
この1本のポイントは2つ。いや、3つでしょうか。
- 山廃仕込み
- 上槽後、即火入れ
- 2回火入れ
山廃仕込みの『山廃』とは『山卸し廃止』の略称で、酒づくりの工程のひとつを指します。
『山卸し』でつかうのは、身の丈よりもながーーーい木の棒です。
名を、櫂棒(かいぼう)。
タンクのなかをかき混ぜるための棒なのですが、山卸しでは『桶に入れた蒸米をすり潰す』のにつかいます。
これ、ちょっと想像してみてください。
身長よりも高さのある棒で、桶に入れた米をすり潰す姿を。
『すり鉢』と『すりこぎ』でおはぎを作るのとは訳がちがいます。
なにせ扱いづらい。
そしてなにより、重いんです。
そんな扱いづらくて重い棒で蒸米をすり潰す作業を、いにしえのやり方では3分間。5セット行います。
正直、櫂棒でタンクをかき混ぜた経験のある人間からすれば、正気とは思えません。
重いし、繊細には動かせないし、ダイナミックに動かさないと攪拌できないし……ふだん使わない筋肉を使っている感覚があります。
なにより、疲れるんです。
季節問わず汗が吹き出します。
そんな櫂棒を扱って『山卸し』です。重労働と言われてきたのも頷けます。
とはいえ。とはいえです。
『山廃仕込み』は、そんな『山卸し』を『廃止』したものとなります。
工程自体がありません。
『人力ですり潰す』のではなく『麹のチカラで溶かす』ことにより、廃止を可能としました。
この『溶かす』という方法が見つかったときの蔵人の喜び。きっと計り知れないものだったのではないでしょうか。
叶うのなら、『山廃』が世に出た頃の蔵人の方にお話を伺ってみたいものです。
さてその『山廃仕込み』ですが、味にはどう影響が出るのか。
その答えは『酸』にあります。
蒸米のなかで増える雑菌と自然の乳酸菌を戦わせるため、勝ち抜いた乳酸菌は筋骨隆々。
骨太な味わいになるとされています。
そして特筆すべきは、この『刈穂』のポイント2つ目と3つ目です。
“上槽後、即火入れ”
“2回火入れ”
「しぼってすぐに火入れを2回……?」
ちょっと不思議に思いますよね。
実は火入れって、むかしは『貯蔵する前』と『出荷する前』で2回行われていたんです。
1回目は、殺菌+酒質を安定させるため。
2回目は、殺菌のため。
むかしは2回目の前に割り水をしてアルコール度を調整していたので、『再度』殺菌してから出荷していたんですね。
ただ、近年は原酒のまま。あるいは、割り水してからビン詰めするのが主流なので、1回火入れの蔵が増えました。
なのでこの『刈穂 山廃純米酒 ひやおろし』は、ややクラシカル。
『2回火入れ』という、どこか懐かしい響きをもつ1本となっています。
『刈穂 山廃純米酒 ひやおろし』を飲んでみて
この1本の味わいを一言であらわすのならこうなります。
“もうね、刈穂ぉぉぉっ!って感じ”
おなじ刈穂の純米酒『宝風』を思わせるメロン感。
フルーティーさがありながらも、舌には酸味がジリつきます。
甘口辛口でいえば、『やや辛口』でしょうか。
甘みなく伸びやか。
うまみがベタつきません。
舌ざわりがスッキリしているせいか、柔らかいわけではないのにスイスイいけちゃいます。
ふわっとした余韻に至るまでがスムーズなので、変わっていく味わいが心地良い1本ですね。
ぜひ、秋の味覚といっしょに。
……と言いたいところですが、私は肴なしで飲みきってしまいました。
少し涼しくなった夜だからこそ。
この酸とコクが、いいです。
単体でも十分に楽しめる1本なので、食中、食後、なんとなく。お好きなタイミングで楽しんでくださいね。
『刈穂 山廃純米酒 ひやおろし』の商品情報
- 使用米:美山錦
- 精米歩合:60%
- アルコール度:16度
- 日本酒度:+2
- 酸度:1.6(2025年)
- 発売時期:9月上旬頃
まとめ:秋深まる前に飲みたい、冷やしておいしいひやおろし
夏にはあまり市場で見当たらなかった『山廃』が台頭してきましたね。
味わいのトレンドが変わってきたのをひしひしと感じています。
今回の1本もそう。
酸とコクを熱燗で……
と言えればよかったのですが、秋田の9月はまだまだ夏です。
ホッとするのはまだ少し先にして、ここは常温以下で。
ぜひ冷やして飲んでみてください。
グッと入る『山廃』らしさの後に、スッと喉をとおる『刈穂』らしさがありますよ。
最後の最後で擬音ばかりになってしまいましたね。
それでは今回はこのへんで。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ではでは。
※秋酒でいくつかまとめてみたので、お手すきの際にでも読んでみてね。