少しずつ少しずつ秋田の日本酒を飲んできて、いよいよ書けるのではないかと思い筆をとっております。
こんばんは、いしかわです。
日本酒の好みを聞かれると、サッと答えやすいのが「甘い」か「辛い」かですよね。
「甘い方が〜」とか、
「辛口が好きですね」とか、
お店の人にも伝わりやすく、日本酒選びの参考にしやすい感想です。
が、しかし。
しかしどす。
令和の日本酒って、ちょっとぶっ飛んでいます。
日本酒度が−6から大甘口。+6から大辛口と呼ばれる世界で、たやすく2桁を記録してくるんです。
こうなれば、好きでも勇気のいる選択肢。
買うにも他人の感想が欲しくなりますよね。
ということで今回は、辛口編。
+10度以上の秋田の日本酒をランキング形式で紹介していきます。
さっそく、いってみましょう。
1位:刈穂 山廃純米 超弩級 気魄の辛口
秋田でこれに勝る辛口は、2025年現在でも存在しません。
日本酒度は、驚愕の+25!
第1位は、『刈穂 超弩級 気魄の辛口』です。
1秒でわかる辛さは、まさに超弩級。
日本酒の糖分を完全にゼロとした、究極の「甘くない」が詰められています。
テイスティングして感じたのは、甘みを抜きにした米のうまみ。
塩気すら錯覚する味わいに、18度のアルコールがズシリと乗ります。
キレに関しては言わずもがな。
しっかりと重厚感を切っていきました。
1杯目に飲めば重みが強く、舌が慣れてきたころにはスイスイ飲める。
お世話になっている酒屋さんが『魔物』と評していましたが、まさに!です。
力強い辛さから消えていくまでの濃密な時間を、ぜひ一度はお試しくださいませ。
余談ではありますが、2024年初頭に『まんさくの花』から試験醸造の魔物が誕生しました。
そちらもおなじく、日本酒度は+25。
制作秘話として、「苦みの出ない限界を狙った」と語られていた1本です。
そのギリギリのラインが+25なのだとしたら、超弩級はまさにスレスレ。
秋田県では不動の1位であり続けるのかもしれませんね。
※ここがポイント
- 美山錦×ぎんさん
- 720ml:1,760円という高コスパ
- 揺るぎない不動の1位
2位:刈穂 山廃純米生原酒 番外品
やはり2番手。こちらも殿堂入りと言っていいのではないでしょうか。
日本酒度は、驚異の+22。
『刈穂 山廃純米生原酒 番外品』です。
冬深まる頃にあらわれるこの魔物は、一升瓶のみでの展開。コストパフォーマンスにすぐれていて、3080円というお値打ち価格で買えてしまいます。
ゆえに、買いやすい。
怖いもの見たさで手を出しやすいんです。
居酒屋さんとしても一升瓶のほうが助かるにちがいありません。
が、しかし。
しかしですよ。
この刈穂……アルコール度が19度もあります。
+22を記録する日本酒度と合わさって、ズシリと来るんです。
怖いもの見たさで頼んだ1杯に、『甘くない』がミチッと詰まっているんです。
テイスティングしてみると、辛口は言わずもがな。
舌が慣れるまではふくらみを感じず、素直に重く舌に落ちます。
当たり前ですが、『並』ではありません。
慣れてきてからようやく、+20超えにしかない“重みあるうまみ”に気づけました。
それまでの感想は、『うまい』ではなく『すごい』。
ただただ『並ではない辛さ』に心が震えた次第です。
※ここがポイント
- 美山錦×秋の精
- 展開は一升瓶のみ
- 冬季限定品
3位:特別純米 日の丸 HYPER DRY
2024年初頭にあらわれた超新星は、日本酒度+25の魔王。
苦みの出ないギリギリを見極めて、『試験醸造』という形で登場しました。
あれから1年。
「また仕込むかはわからない」と言われた1本が、再び日の丸を背負いました。
2期目である2025年の日本酒度は、+21。
香りからは穏やかな酸を感じ、まだ実力が隠れています。
テイスティングしてみると、確かに苦みがひかえめ。重みも抑えられていて、口当たりには軽快さすら感じます。
そして当たり前ですが、まったく甘くありません。
甘みがないから味わいの変化が少なく、キレがきれい。
秋田酒こまちの上品さも合わさって、グッと飲みやすくしてくれていました。
HYPERDRY(ハイパードライ)とは、まさに!
と、おもわず膝を打ちたくなる1本でしたよ。
スペックだけで見れば、精米歩合55%と純米吟醸クラスです。
「超辛口に挑戦してみたいけど飲めるか自信がない」
そんな人にこそ飲んでほしい、軽快できれいな特別純米です。
個人的には+20超えのなかでもイチオシですよ。
※ここがポイント
- 秋田酒こまち100%使用
- 「辛口とは何か」に挑んだ意欲作
- 登場から日が浅い、これからの1本
4位:天の戸 醇辛 超辛生+18
定番商品をさらに発酵させると、ここまで辛くなる。
第4位は、浅舞酒造から。
『天の戸 醇辛 超辛口+18 生』
日本酒度はそのままズバリ、+18です。
天の戸といえば『美稲(うましね)』が有名ですが、その陰に隠れているのが『醇辛(じゅんから)』です。
「ちょっと辛辣じゃない?」
と思いますよね。
実はこれには理由があって……
私、以前はスーパーで酒担当をしておりました。
そのときの売場は、『美稲』と『醇辛』が横ならび。
売れるのは常に『美稲』だったんです。
そのため『醇辛』は在庫となり、やがて値引きの対象に。
売れないお酒、という印象がありました。
ところがどっこい。
どっこいですよ。
なぜ売れないのかと買って飲んでみると、驚きました。
おいしいんですよ。
『醇辛』の日本酒度は+10。当時としては高すぎる数値です。
それなのに、うまくて辛い。
しかもやや熟成が進んでいて、コクのおいしい辛口だったんです。
うまい酒は、うまい酒の陰にありました。
さて、そんな1本が、さらに発酵させることで+18の超辛口になりました。
テイスティングしてみると、なんと明るい酒質か!
刈穂の番外品にも負けない重厚なうまみに、生酒らしいフレッシュさ。
沈み込むように重いのに新鮮さが飲ませます。
後味のピリつきは少なくて、アルコール感は色濃く残りません。
辛さに慣れてくると、しっとりと甘みも感じられました。
「+20を切るとこうなるのか!」
「生酒だとこうなるのか!」
と、しきりに頷いてしまう1本でした。
季節限定品なので、見かけたらお飲み逃しなくですよ。
※ここがポイント
- 吟の精×美山錦
- 発酵日数40日の完全発酵を目指した1本
- 生酒らしいフレッシュさ
5位:ゆきの美人 山田錦 6号酵母 超辛
山田錦だからこその“甘くないうまみ”が、和食に合うんですよ。
日本酒度は+15〜19。
第5位は『ゆきの美人』から。
『山田錦 6号酵母 超辛』です。
山田錦を100%使用した贅沢をゆく辛口は、年4回の発売。
特約店限定とちょっと敷居は高いですが、ゆきの美人のなかでも1、2を争う人気の銘柄です。
テイスティングしてみると、やはり『うまみ』に気づきます。
舌を包みこむようなうまみが、超辛口のなかに。
口に含んだときに香りが立つので、うまみ、香り、辛みのバランスが絶妙です。
個人的には、和食のなかでも寿司がイチオシ。
酢飯の塩気との相性がバツグンでした。
逆に、味噌のようなコクの強いものと合わせると、お酒の方が負けていたように感じます。
味噌よりは、しょうゆ、塩。
淡白な塩味がよく合いますよ。
山田錦×超辛口という組み合わせは秋田県にはなかなかないので、見かけたらぜひ手に取ってみてくださいね。
ちなみに、年4回発売なので、割といつでも手に入ります(笑)
※ここがポイント
- 山田錦100%
- 食中酒として飲みやすい
- 割といつでも手に入る
6位タイ:特別純米生原酒 うまからまんさく 番外品
日の丸醸造の蔵人からもっとも愛される銘柄、『うまからまんさく』。
そんな『うまくて辛い』の代名詞シリーズから、冬は魔物があらわれます。
『特別純米生原酒 うまからまんさく 番外品』。
日本酒度は、+15です。
通年品とひやおろしの日本酒度は+8と、ふつうであれば十分な大辛口にあたります。
ですがここは、辛口の上澄みが競う世界。
+8など可愛く感じてしまいますよね。
さて、そんな上澄みをゆく『番外品』ですが、やはり辛いです。
『甘くない』がしっかりと詰められています。
ただ、+20超えの魔物とちがうとすればフルーティーさでしょうか。
口のなかでの香味が豊か。
メロンのような青々としたフルーティーさが、口いっぱいに広がります。
これがホントにおいしいんです。
『甘くないのにメロンの香り』という、矛盾してそうな感想が成り立ってしまいます。
超辛口のなかの果実感が、しっかりと感じられる。
+15という数値までくると重みは消え、飲みやすさがグッと増しました。
個人的には、ここが辛口好きの分水嶺。
この1本を辛いと感じるか、うまいと感じるかが分かれ道です。
「まったく甘くない」「おいしくない」と感じたら、もっと小さい数値のものを。
「もっと辛くてもいい」「おいしい」と感じたら、さらに大きな数値へ。
ぜひこの1本を、あなたの好みの指標にしてみてください。
※ここがポイント
- 秋田酒こまち100%×精米歩合55%
- アルコール度は17度台に
- 定番品が+8なので、飲み比べがおもしろい
6位タイ:山本 純米酒 ど辛
「あの鈴木ってどの鈴木やねん」という声が聴こえてきそうな第6位タイは、山本酒造店から。
その名もズバリ『ど辛』。
日本酒度は、+15です。
この1本、四合瓶で1300円という高いコスパを誇ります。
しかも、特約店限定じゃないんです。
スーパーでも取り扱えますし、アンテナショップにも置いています。
売っている場所が多いというのは、買い手にとってうれしいことですよね。
さて、そんな『ど辛』ですが、テイスティングしたのがだいぶ昔です。
なぜそんなことを言うのかというと、実は、私が飲んだものとは酒米がちがうんです。
当時は『めんこいな』を使っていましたが、現在は『ぎんさん』が100%。
そのため、味の感想を書くとウソになってしまいます。
なので豆知識をちょっとだけ。
この『ど辛』に使われている『セクスィー山本酵母』……
名付け親は、ゆきの美人の小林社長。
もともと『セクシー山本酵母』だったものを、「セクシーよりセクスィーの方がおもしろいじゃん」と言われ、改名に至ったのだそうです。
NEXT5としての繋がりがそんなところにも表れているなんておもしろいですよね。
※ここがポイント
- ぎんさん100%×精米歩合65%
- 四合瓶で1300円とリーズナブル
- セクスィーで笑った人には天罰がくだるらしい
8位:刈穂 山廃純米 超辛口+12
第8位は、+10超えがほぼなかった時代からずっと+12を記録しつづける古豪。
古き良き大辛口をゆく、『刈穂 山廃純米 超辛口+12』です。
この1本も、割とどこでも買えます。
スーパーやアンテナショップだけでなく、コンビニでも扱うところがあるくらい身近な1本です。
テイスティングしてみると、さすが古くからの山廃純米。
しっかり辛くて、しっかり酸を伴います。
そしてこの酸を伴ったうまみが、しっかり濃いです。
丸みのある甘みから同時にクセが感じられるので、人によっては雑味と感じるかもしれません。
特に、若い世代。
日本酒を飲み始めたばかりの世代にはあまりオススメできない。
というのが正直な感想です。
ただ逆に、これまでずっと日本酒を飲まれてきた世代。私がアラフォーなので、もう少し上でしょうか。
60代以降の方には『どこか懐かしさを感じる味わい』なのではないかと感じました。
ターゲットをしっかりと絞った1本です。
ぜひ、この記事を参考にしてから手に取るか決めていただきたく思います。
※ここがポイント
- うまみ重めの山廃純米
- 若い世代には不向き
- 買える場所を選ばない
9位:ゆきの美人 純米酒 完全発酵
さて、再び現れました『ゆきの美人』から赤のラベル。『完全発酵』の名を冠した、通年販売の純米酒です。
日本酒度は、+12くらい。
『くらい』と言うしかないのは、明確な表記がないからです。
+12〜15の時が多く、12を下回ることはないという印象です。
先ほど紹介した『超辛』を1とすれば、この『完全発酵』は2。
ゆきの美人のなかでも人気を二分する1本となります。
テイスティングしてみると、『甘くない』のはもちろんなのですが、味に若さが感じられます。
これは、準四季醸造による特権と言いましょうか。
冬だけでなく春夏にかけてもお酒を仕込むので、常に新鮮なものを提供できるのが理由です。
そのため、若い酒特有の苦み渋みがついてくるロットもありますが、大筋は『きれいな酸をもつ大辛口』。
辛口の酒が多いゆきの美人のなかでも、蔵を象徴する1本となっています。
特約店限定ではありますが、通年の商品です。
ゆきの美人を知りたい、飲んでみたいという方は、ここから始めてみてはいかがでしょうか。
※ここがポイント
- 特約店限定ながらも通年販売
- 食事を選ばない食中酒
- 『超辛』が辛すぎた人にオススメ
10位:大納川天花 特別純米生原酒 炎ラベル
さて最終。10位のしんがりを務めてくれるのは、大納川初の+10超え。
『大納川天花 特別純米生原酒 炎ラベル』。
日本酒度は、+11です。
きっかけはお客様の声でした。
「大納川の蔵付き酵母で辛口ってできないの?」
確かに言われてみれば、ハートラベルを皮切りに、寿司、月、亀、俵、流れ星、エンジェルなど、大納川は甘口が中心です。
「そういうこだわりのある蔵なんだろうな」と思っていたファンも多いのではないでしょうか。
私もそうです。
特に疑問はもちませんでした。
ですが、言われてみれば!
言われてみればそうなんですよ!
このほっこりする香りに辛口があれば、どれほど食中酒にしやすいことか。
もしかして炎ラベルは、すべてのファンが待ち望んでいた1本なのかもしれません。
さて、そんな炎ラベルですが、これまで紹介してきたお酒とは大きく違うところがあります。
それは、使用米です。
使っているのはなんと『あきたこまち』。
秋田酒こまちではありません。あきたこまち。飯米なんです。
テイスティングしてみると、しっかりと辛口なのに、ほんの少しの甘みが口のなかに香ります。
なので、日本酒度の割に尖りません。
慎ましやかなお米のうまみと酸が合わさって、落ちつきすら感じるほどです。
口当たりにあるのは、“やわさ”でした。
そこはやっぱり飯米です。うまみの薄さはあります。
ですが炎ラベルに関しては、それが“ホッ”とさせてくれるんです。
むしろ、おいしいんです。
この“あったかい味わい”が、なじむんです。
超辛口って重いイメージがありますが、炎ラベルは超軽快。
最後のひとくちまで軽〜く飲めてしまう、ファンが待ち望んだ1本ですよ。
※ここがポイント
- 大納川初の+10over
- あきたこまち100%使用
- 蔵付き酵母で挑んだ超辛口
まとめ:発酵の限界から蔵付きの挑戦まで、秋田の日本酒は味幅が広い
日本酒の辛口って、極限まで糖分をなくしたもの。
すなわち“甘くない”ことを言います。
が、しかし。
しかしですよ。
どう考えても、“辛い”んですよ。+20を超えると特に。
アルコール度の上昇や高い酸度も合わされば、舌がビリビリします。
ですが、+20を切ると不思議なもので!
ほんのりと甘みを感じるんです。
+15までいくと、酒米の違いが顕著になります。
山田錦の、形あるうまみ。
秋田酒こまちの、ふわっとした軽快さ。
秋の精がもつ重み。
美山錦の花のようなフルーティーさ。
ぎんさんのやや大味なうまみ。
あきたこまちの、温かみある甘み。
どれもこれも、辛いだけでは終わりません。
挑戦があります。
個性があります。
進化があります。
辛口好きを退屈させない、エンターテインメント性にあふれたものばかりです。
この世界、ハマれば沼ですよ。
あなたはどの辛口から攻めますか?
ちなみに私のオススメは、ハイパードライとゆきの美人の完全発酵。そして、炎ラベルです。
ではでは!
※まだ間に合う!冬酒もどうぞ!